Memories of Fire

ドタバタな二人

 次の日の夜。

 マリーはエルマーとの約束通り、軍の訓練が終わる頃を見計らって中庭へやってきた。

 一応プロポーズをすると宣言されたわけなので、ドレスも改造していないきちんとした正装用を着ている。露出は少な目の白いドレスで、胸元から首にかけてに花柄の刺繍がされているお気に入りである。スカートには飾りはなくシンプルで長くても動きやすいのがいい。

 エルマーはもうすぐ来るだろうか。プロポーズの答えなんて決まっているはずなのに“どうしよう”という気持ちになる自分を可笑しく思いつつ、マリーはそわそわと中庭の中央辺りを歩き回った。

 エルマーが中庭を指定したのは、他でもないマリーの希望だったからだ。庭師が魔法で管理する中庭には一年中色とりどりの花が咲いていて、美しい。城の中で一番ロマンチックな場所だとマリーは思っている。

 母や姉妹、もちろんエルマーも、ときには世話係の侍女を招待してお茶会をするのがお気に入りだ。

 小さい頃は、エルマーとよくここで遊んでいた。エルマーはよく、花壇の花でマリーに冠や指輪を作ってくれた。幼い頃に結婚の約束をしたのも、恋人になったのも、この場所だった……

 だから、マリーは本番も中庭でしてほしいといつも言っていたのだ。

 そんなこと思い出しながらエルマーを待つ。やがて、城から中庭へ出る扉からエルマーが現れると、マリーは緊張で背筋を伸ばした。

 ゆっくりと歩くエルマーは、軍服姿だ。正装用の勲章がついた鶯色の詰襟に、白い手袋。革靴は綺麗に磨かれている。彼のチャームポイントとも言えるヘアバンドはしておらず、短い茶髪もしっかりセットされていた。
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