Memories of Fire
「マリー」
「……うん」

 エルマーの手が心なしか震えている気がする。マリーの手の甲にキスを落とした唇も、冷たく感じた。だが、それとは対照的にマリーの心は温かくなる。

 エルマーが自分のために一生懸命なのが伝わってくるから……

「マリー。貴女を愛しています。俺と結婚してください」

 エルマーはそう言って花束を差し出した。キュッと唇を引き結んで、硬い顔をしている。

 マリーの答えなんて一つしかないのに……

「はい」

 マリーは差し出された花束を受け取るのと同時に頷いた。エルマーは心底ホッとした様子で頬を緩め、ふらりと立ち上がる。それから、マリーを抱き寄せて彼女に身体を預けてくる。

「よかった……」
「何よ。私がもう怒っていないってわかっていたくせに」
「それは……でも、俺、また自分だけ都合よく考えてたらって思って……めちゃくちゃ不安だった。マリーに嫌われたら、俺、生きていけない。この数日だって、耐えられなかった!」

 エルマーは子供みたいに言うと、マリーの頬を両手で包み込み、額を合わせた。

「マリー。俺、マリーのこと、好きだよ。愛してる。小さい頃からずっとだよ。他の女の子なんて全然興味なくて、俺はずっとマリーをお嫁さんにするって決めてた」
「私だって、他の男を見たことなんて一度もない。エルマーのお嫁さんになるって決めていたもの」
「じゃあ……俺を……マリーを守る騎士(ナイト)にしてくれる?」
「ええ。もちろん」

 マリーの言葉を聞くと、エルマーは「良かった」とようやく満面の笑顔になる。

「でも、あんまりへらへらしていると、また締め出すわよ」
「痛い……」

 マリーはエルマーの額を指で弾く。彼は赤くなったそこを手で押さえつつ「反省してます」と模範解答をした――
< 38 / 62 >

この作品をシェア

pagetop