Memories of Fire
「こんばんは、ソフィー様」

 今まで無遠慮に人を見ていた人間の最初の一言に、ソフィーは毒気を抜かれた。この男は何を考えているのか。

「……こんばんは」

 訝しげに挨拶を返すと、クラウスは目を細めて彼女を見る。それから、ソフィーの気を引こうと一生懸命だった貴族の男へ向き直り、軽く頭を下げた。

 「少し、彼女とお話してもよろしいでしょうか?」
 「え……あ、は、はい……」

 男も突然やって来たクラウスに困惑したのか、すんなりと身を引く。彼がソフィーたちから離れ、クラウスが再びソフィーを見つめる。
 
 この視線は嫌いだ。
 
 「ようやく、目が合いましたね」

 淡々と言ってのけるクラウス。ソフィーは顔を顰めてフンと鼻を鳴らした。

 「白々しいわね。貴方がしつこいから、追い払いたかっただけだわ」
 「それは光栄です」
 「貴方……私の言っている意味がわかっていらっしゃる?」

 クラウスの返答に大きくため息をつき、ソフィーは首を緩く横に振る。

 「ええ。それだけ私を気にかけてくださったということだと解釈しました」
 「……意味がわからないわ」

 ソフィーがそう言えば、クラウスはくすりと笑って「そうですか」と相槌を打つ。まったく訳のわからない男だ。

 「では、いくつか質問をしましょう。貴女は、今まで自分に近づいてきた貴族の男たち……何人の顔を覚えていらっしゃいますか? 彼らの名前とお話した内容は思い出せますか?」

 そう問われ、反射的に今日のパーティでソフィーに話しかけてきた男性を思い出そうとする。
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