Memories of Fire
 確かにハンナは少々痩せ気味だ。身長も姉妹の中で一番低いし、余計に小さく見えるのかもしれない。それに、ソフィーやフローラみたいに胸も大きくない……ジークベルトの大きな手には物足りないのもわかる。

 わかるけれど、露骨にそれを指摘されると腹が立つというものだ。

「ジークは私のお父様か何かなのかしら?」
「またそうやって拗ねるのか? 別に俺は本当のことを言っているだけだ。野菜は確かに健康的だが、食事に必要なのはバランスだ。お前の食事は偏りすぎなんだよ」

 ハンナの不満そうな視線をしっかり受け止めて、ジークベルトは父親のような説教を続ける。

「きちんと食べないと体力もつかないし、倒れたら困るだろう」

 ジークベルトははぁっとため息をついて頭を掻く。

「別に拗ねていないし、倒れないわよ。病気なんてほとんどしたことないもの」

 軽い風邪を引くことくらいはあるが、特に健康に支障をきたしたことはない。王女だからか弱いとでも思っているのだろうか。

「そうじゃないだろう。俺は、将来のことを考えて――」
「なんだ、ジークベルト。やっと結婚の話か?」

 そこへ、ヴォルフの声が割り込んできて、ハンナとジークベルトは声が聞こえた方を振り返った。

 ヴォルフはお酒も入って気分が良いのか、随分柔らかな表情をしている。その横にはフローラも微笑んで寄り添っていた。

「こんばんは。ハンナ様、ジークベルト様」
「ヴォルフ様、フローラ様……本日は、おめでとうございます」

 ジークベルトが恭しく挨拶をすると、フローラは困った顔で「ありがとうございます」と返す。一般家庭出身の彼女は、まだヴォルフと同様に扱われることに慣れないのだろう。
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