Memories of Fire
「別に俺を待たなくてもいいと皆言っていたのに、お前たちも物好きだな」
「マリー姉様だって順番は守ったもの。それに、ヴォルフ兄様が妃を見つけるのにこんな時間がかかるとは思わなかったの!」

 ハンナが不貞腐れて言うと、ヴォルフはクッと笑い「それは悪かった」と返事する。

「もう、絶対悪いなんて思っていないでしょ? でもいいわ。フローラみたいな可愛いお義姉様なら待った甲斐があったというものよ」
「お、お義姉様だなんて……」

 ハンナが笑顔を向けると、フローラは頬を染めておろおろする。彼女は二十二歳、ハンナより五歳年下だ。義妹になるとはいえ、年上の王女に義姉(あね)と呼ばれるのは畏れ多いとでも思っているに違いない。

「フローラは宮廷ピアニストでもあるし、音楽家同士、ジークとも仲良くしてね」
「はい……ジークベルト様、よろしくお願いします」

 フローラははにかんで軽く頭を下げる。

「ああ、いえ……こちらこそ」

 それを受けて、ジークベルトは照れたように後頭部を掻き、困り笑いをしている。ハンナはそんな彼を横目で見て肘で突いた。

「ちょっと、ジーク。デレデレしないで」
「……していない」

 ハンナに指摘されるとジークベルトはため息をついて眉を顰める。

「ハンナ、お前は何をそんなに拗ねているんだ」

 続いて、ヴォルフも呆れたように嘆息した。ジークベルトに対するハンナの態度のことを言っているらしい。
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