Memories of Fire
「俺がバランスの良い食事を心がけるように言うのがしつこくて嫌みたいです」
「食事……? ああ、お前はうさぎみたいな食事しかしないからな。フローラもあまり食べないが……」
「そんなことないですよ。城へ来てからおいしい食事ばかりで太ってしまいました……それに、ヴォルフ様はたくさん食べろとおっしゃって、お皿に勝手に盛ってしまいますし、食べきるのが大変なんです」

 フローラはやはり困り顔でドレスのウエスト部分に触れつつ「このドレスも、せっかく作っていただいたのに着られなくなってしまいそうです」と零す。

「心配するな。お前は痩せすぎだ。もう少し太ってようやく普通だぞ」

 ヴォルフはフローラの腰と膝へ手を回し、徐にひょいっと彼女を持ち上げた。

「軽すぎる」
「ヴォ、ヴォルフ様! 恥ずかしいです。お、降ろしてください」

 突然横抱きにされたフローラは、驚きに小さく悲鳴を漏らし、顔を真っ赤にしてヴォルフの胸を叩く。
 ハンナはそんな二人のやりとりを見て、新婚夫婦の中睦まじい様子を羨ましく思い苦笑した。

「もう……ヴォルフ兄様、フローラが困っているわよ。いちゃいちゃするのなら、早く部屋へ戻ったら? パーティもそろそろお開きでしょ?」
「ああ、そうだな」

 フローラを降ろし、人の少なくなってきた会場を見回すと、ヴォルフは彼女の肩を抱き寄せる。そして彼女の耳元に何か囁きを落とした。

 その瞬間、再びフローラの顔が真っ赤に染まり、ヴォルフは面白そうに笑みを浮かべるとハンナとジークベルトに向き直る。
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