Memories of Fire
「ヴォルフ兄様、ご機嫌だったわね」
「そうだな」
「フローラも幸せそうで良かった」
「ああ」

 ハンナの言葉に素っ気無く答えるジークベルトを見上げると、彼は彼女から少し顔を背けている。

(また、そうやって……)

 ハンナは適当な相槌を打ち、まったく自分を見ようとしないジークベルトにムッとして、ぎゅっと彼の腕に纏わりつく。

「ジーク! 私の話、ちゃんと聞いている?」
「お、おい……あんまりくっつくな。ちゃんと聞いている。ヴォルフ様とフローラ様が無事に結婚式を迎えて良かったって話だろう」

 確かに話の内容は合っているが、「くっつくな」とは……なんて言い草だ!

「くっつくなって何よ。私たち、婚約しているのよ? 腕を組むくらい普通じゃない」
「いや、それはそうだが……」

 なんだか歯切れの悪い返事。

「『だが』何? 私とは親同士の決めた縁談だから嫌なの? ソフィー姉様だってクラウスとはそういう始まりだったわ。でも、今はお互いのことをちゃんとわかっているし、二人は何でも言い合っている。それなのにジークってば、いつまで経っても私とは一歩距離を置いているわよね!」

 嫌なら嫌だと言ってくれたほうが余程いい。長い婚約期間で言いにくくなったとか、体裁を気にしているとか、そういうことなのだろうか。
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