Memories of Fire
 彼女の機嫌を取ろうと、しつこいくらいにソフィーに纏わりつく貴族の男たち――何人と数えるのすら億劫だ。もちろん、名前と顔が一致することなどありえない。
 
 さっきまでソフィーに一生懸命話しかけていた男の顔すら、はっきりとは覚えていなかった。
 
 ソフィーの意識はこのパーティが始まってからずっとクラウスにあったのだから……

 「何人もいたから、わからないのは当然だわ。それに、彼らの話だっていつも同じようなものばかりだもの」

 彼らは一様に自分の家柄や功績を自慢するけれど、そんなつまらない話は右から左へ流れるばかり。しかし、クラウスはソフィーの言い訳を聞いてまた笑う。

「では、私のことはどうでしょうか?」
「貴方とは元々顔見知りでしょう。それに、あれだけ見られていたら嫌でも覚えるわ。けれど、“気にかけていた”なんて前向きな解釈はしないでいただける? じろじろ人のことを見て、不愉快だったから覚えているだけよ」

 ふいっと顔を背けて、話は終わったと言わんばかりに歩き出す。今日のパーティも適当に時間を潰せたと思うし、もういいだろう。早く部屋に戻って休みたい。
 
 しかし、そんなソフィーの後をクラウスがついてくる。

「嫌よ嫌よも好きのうち……と言いますよ」
「貴方、優秀な役人だとお父様が買っていたけれど、何かの間違いみたいね」

 こんなにも話の通じない人間は初めてかもしれない。

「間違いではありません。バルトルト様にはとても良くしていただいております。ソフィー様との縁談を申し入れましたら、とても喜んでくださいました」
「な――!」

 聞き捨てならない言葉に、ソフィーはパッと振り返る。クラウスは相変わらずうっすら笑みを浮かべている。
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