Memories of Fire
 その日の夜。

 ハンナが自室のベッドに潜り、寝ようとしたところで右手の人差し指が熱くなった。

 ハンナたちが良く使う、魔法を使った連絡方法――炎を介して会話をすることができる魔法だ。

「ジーク?」

 ハンナは指に炎を灯し、炎の向こうのジークベルトに呼びかけた。

「ハンナ……良かった。まだ、起きていたか?」
「うん」
「そうか……」

 ジークベルトは炎の向こうでホッと息を吐く。安心した様子が伝わってきて、ハンナの胸がキュッと締め付けられる。

「あのさ――」
「あのね――」

 と、同時に切り出し、同時に口を噤む。しばらくの沈黙の後、それをジークベルトが破る。

「どうした? 何か、あったのか?」
「ううん……ジークこそ、何かあった?」
「いや、俺は……その、エルマー様から連絡をもらった」

 ジークベルトが言いにくそうにしているのがわかる。彼の困り顔を想像し、ハンナはクスッと笑う。

「俺がお前の食事に文句を言う理由……ちゃんと言ったらどうだって、言われたんだ」
「そう……あの、ごめんね……ジークの話、聞かなくて、一人で怒って……」

 ハンナはフローラに言われて反省したことを、ジークベルトに告げた。それから大きく息を吸って、震える声を出す。
< 55 / 62 >

この作品をシェア

pagetop