Memories of Fire

引かれて、押されて

 それから――
 
 数日後には、バルトルトからクラウスとの縁談を勧められ、ソフィーはそれを承諾した。
 
 パーティで、クラウスなら……と、その場の厄介払いのためとはいえ納得はした。勝手に決めていいと言っていた手前、断ることも憚られたし、バルトルトもマリーとエルマーもとても喜んでいたので、わがままを言えなかった。
 
 バルトルトが正式に認めた二人の仲は、すぐに周知の事実となり、ソフィーにしつこく言い寄っていた貴族の子息たちも諦めてくれたようだった。
 
 城では第一王女の婚約式・結婚式の準備が着々と進み、ソフィーも毎日ドレスの調整やら指輪選びやら……それなりに忙しくしている。
 
 だが、クラウスの態度は相変わらずだった。
 
 数日に一回程度、仕事のついでに会いにくる。お茶くらいはするけれど、デートの誘いもなければ、手を握られることすらない。
 
 ソフィーとの結婚を、恋愛の延長にあると言っていたのはどこの誰だったのだ。
 
 今日も、議会を終えたからと城へ来たクラウスだが、紅茶を飲みつつ何やら難しそうな本を読んでいるだけ。これではソフィーといる意味がない。
 
 一体、彼は何を考えているのだろう。
 
 中庭のテーブルを挟んで向かい側に座るクラウスに、ソフィーは訝しげな視線を投げかけた。すると、クラウスが本から顔を上げて首を傾げる。
< 8 / 62 >

この作品をシェア

pagetop