ヴァイス・プレジデント番外編
「すず…」
裏口に行くと、携帯をいじっていたヤマトさんが、どうしたらいいのかわからないといった顔でぱっと私を見た。
さっき聞いたんだけど、と妙に要領を得ない様子で話し出すのを、どうしましたか、と落ち着かせると。
兄貴、結婚するんだって。
切羽詰まった声が、そう言った。
久良子さんとじゃないことくらい、その声を聞けば、わかった。
「え…?」
「春の、お見合いの、相手と」
肩書きにふさわしい、堂々たる風采にもかかわらず、ヤマトさんは不安にうろたえる子供みたいに見える。
聞いた事実と、そんなヤマトさんの様子に、私も呆然と、言葉が出なかった。
すず、と小さな声が呼ぶ。
見あげると、泣きそうに歪んだ視線とぶつかった。
「どういうこと…?」
その声の揺れに。
私が代わりに、泣いてあげたくなった。