ヴァイス・プレジデント番外編
ヤマトさんと延大さんは、いわゆる仲がいい、という以上に絆が強い。
ふたりともああいう性格で、たぶん互いをライバル視したり、うっとうしがったりすることもなく育ち。
まったくぶれることなく尊敬の対象でいつづけてくれる、父親がいて。
仲よくならない理由は、どこにもなかったに違いない。
そして、さらに大きいのは、仕事の上でもパートナーだったことなんじゃないかと思う。
男の人にとって、ビジネスパートナーの存在は、場合によってはプライベートの友達を上回るくらいのものになるんだろう。
それが血のつながった兄弟だったとしたら、なおさらで。
特にヤマトさんの場合、今のポジションについて、右も左もわからなかった頃に延大さんがいてくれたことは、本人が思っている以上に、ヤマトさんを助けたに違いなかった。
「何度かけても、出ないんだ」
絞り出すような声で、ヤマトさんが言う。
彼があんまり心配だったので、私は仕事がそう忙しくない時期なのを幸い、タイミングを見計らって帰ってきた。
キッチンを借りてお茶をいれている間、ソファに背中を預けたヤマトさんは、何度も延大さんに連絡をとろうとしていた。
「CEOや和之さんと、そのお話は?」
「兄貴と話してからと思って」
マグカップにたっぷりのミルクティを注いで、彼の前のローテーブルに置く。
彼はありがと、と律儀に微笑んで、携帯を眺めながらそれに口をつけた。
突然の電話で、一方的に事実だけ伝えられて、えっ? と驚いているうちに通話を終えられ。
そこから、かけ直してもメールしても、まったく反応がないらしい。
「明日には、会社にも連絡が行くって言ってた」
「じゃあ、秘書室にも、届きますね…」
もう退職したとはいえ、一時は取引のあった企業に勤めていたわけでもあり、さらにCEOの息子でもある延大さんの場合、こうした慶弔時の連絡は、確かにマナーのうちだ。
だけど。