ヴァイス・プレジデント番外編


「兄貴って、昔はすごい遊んでたんだよ」

「ヤマトさんくらい?」

「当時は、俺以上だったよ」



当時は、と断るってことは、一応その後の自覚はあるんだな。

そう思って見あげると、その話はいいんだよ、と怒ったように頭を抱き寄せられた。


寝る支度をしているうちに、少しいつものペースを思い出したのか、ヤマトさんはちょっと元気をとり戻し。

Tシャツを借りてベッドに上がった私を招き寄せると、片腕でゆるく抱くように懐に入れて、延大さんの話をしはじめた。



「ふたりづれの女の子がいたりすると、好きなほうとさっさと仲よくなって、ヤマト、そっちの子よろしく、じゃあな、みたいな」

「………」



想像つくようなつかないようなで、なんとコメントしたらいいのかわからない。

延大さん、昔は見た目どおりだったんだ。



「留学から帰ってきても、しばらくそんな感じで。でもある時、急に、そういうことをしなくなったんだ」

「いつ頃のことですか?」



顔を上げると、片手で頭を支えているヤマトさんと、視線が絡む。

ヤマトさんは、その視線をふっとシーツに落とすと。

今思えばね、と当時を思い出しているのか、少しぼんやりした声で続けた。



「あれはちょうど、兄貴が、久良子さんと出会った頃だったんだよ」





ヤマトさんの寝顔を眺めて、やっぱり延大さんに似ている部分も、なくはないなと思った。

鼻筋とか目じりのあたりなんかは、確かに兄弟と言われたら、なるほどと思うくらいかもしれない。


話すだけ話したら気が済んだのか、ことんとヤマトさんは眠ってしまった。

直前まで杖にしていた腕は、そのまま頭の下に敷かれている。

感情の起伏が激しそうに見えて、案外フラットで穏やかな精神を持つ人だから、大きなショックを受けたことで、心身共にくたびれてしまったんだろう。

< 111 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop