ヴァイス・プレジデント番外編
「兄貴って、昔はすごい遊んでたんだよ」
「ヤマトさんくらい?」
「当時は、俺以上だったよ」
当時は、と断るってことは、一応その後の自覚はあるんだな。
そう思って見あげると、その話はいいんだよ、と怒ったように頭を抱き寄せられた。
寝る支度をしているうちに、少しいつものペースを思い出したのか、ヤマトさんはちょっと元気をとり戻し。
Tシャツを借りてベッドに上がった私を招き寄せると、片腕でゆるく抱くように懐に入れて、延大さんの話をしはじめた。
「ふたりづれの女の子がいたりすると、好きなほうとさっさと仲よくなって、ヤマト、そっちの子よろしく、じゃあな、みたいな」
「………」
想像つくようなつかないようなで、なんとコメントしたらいいのかわからない。
延大さん、昔は見た目どおりだったんだ。
「留学から帰ってきても、しばらくそんな感じで。でもある時、急に、そういうことをしなくなったんだ」
「いつ頃のことですか?」
顔を上げると、片手で頭を支えているヤマトさんと、視線が絡む。
ヤマトさんは、その視線をふっとシーツに落とすと。
今思えばね、と当時を思い出しているのか、少しぼんやりした声で続けた。
「あれはちょうど、兄貴が、久良子さんと出会った頃だったんだよ」
ヤマトさんの寝顔を眺めて、やっぱり延大さんに似ている部分も、なくはないなと思った。
鼻筋とか目じりのあたりなんかは、確かに兄弟と言われたら、なるほどと思うくらいかもしれない。
話すだけ話したら気が済んだのか、ことんとヤマトさんは眠ってしまった。
直前まで杖にしていた腕は、そのまま頭の下に敷かれている。
感情の起伏が激しそうに見えて、案外フラットで穏やかな精神を持つ人だから、大きなショックを受けたことで、心身共にくたびれてしまったんだろう。