ヴァイス・プレジデント番外編
ひとりっ子である私は、兄の結婚について、弟がこんなに心を痛めることなんてあるんだろうかと、正直驚いていた。

つながりの濃い兄弟だなとは思っていたけれど、ここまでとは思わなかったし。

あきれるくらい物事を楽観的に、前向きにとらえるヤマトさんが、こうまで打ちのめされていることが衝撃だった。


だけど眠りに落ちる寸前、彼がぽつりとつぶやいた言葉で、ようやく納得した。



――俺は、何かできたんじゃないかな。



ヤマトさんは、悔いているんだ。


延大さんとも久良子さんとも、彼は近い位置にいた。

なのに、ふたりの関係にもそもそも気づかず、いつの間にか彼らが距離を置いていたことにも気づかなかった。


基本的に素直で、物事を見たままに受けとるヤマトさんは、言いようによっては鈍い。

だまされやすいわけじゃないんだけど、やたらに人を疑うことをしないので、他人の隠しごとなんかには気づきにくい。

彼より一枚も二枚も上手の久良子さんが、本気で誰にも知られないようにしていたんだとしたら、ヤマトさんが何ひとつ感じとれなかったのなんて、当たり前だ。

仕方ない。


だけどヤマトさんは、そんな自分を許せないんだろう。

延大さんが、どれだけ本気で久良子さんを好きだったか一番よく知っているだけに、なおさら。


かわいそうだ。

ヤマトさんは何も悪くないのに。

誰も知らないところでひとり、こんなに胸を痛めてる。


身動きひとつせず、深く深く眠っている様子のヤマトさんの肩まで、綿のブランケットを引きあげると。

スタンドのライトを消し、私はなんだかやるせない気持ちで隣にもぐりこんだ。



延大さん。

何があったのか、ちゃんと説明してあげてください。

あなたの決断に、ヤマトさんができることはなかったんだと、安心させてあげてください。


それが難しいなら、せめて。

今、幸せだと、言ってあげてください。

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