ヴァイス・プレジデント番外編
秋の入り口である今、ひとりで寝るなら、半袖じゃ寒いに違いない。

だけどヤマトさんの体温で、ブランケットの中は暑いくらいに暖まっている。

大きなベッドの上で、清潔ないい香りのする、ヤマトさんのTシャツの胸に顔を寄せて。

お願いです、と祈りながら目を閉じた。




イギリスに事務所を立ちあげるため、向こうと日本を行ったり来たりの延大さんとは、そもそも会える機会が少ない。

延大さんがうちの会社のコンサルタントをやめてから半年、ヤマトさんもほとんど会えていないらしかった。


報告があってから数日後、家族どうしの顔合わせに来るようにと、お母様からヤマトさんに連絡が入った。

聞けば延大さんたちはもう来月には入籍して、夫婦でイギリスに渡るらしい。

ずいぶん急な話に思えるけれど、それはたぶんヤマトさんにだけ、この話が知らされていなかったせいなんじゃないだろうか。

ヤマトさんもその可能性に思い至ったらしく、それからの彼はひどく滅入っているようで、見ているのがつらかった。





『ヤマトいるー?』



インタホンのモニタをのぞいた私は、見ているものが信じられなくてぽかんとした。

延大さん。



昨日の土曜は、顔合わせの日だった。

ヤマトさんは珍しく、軽く酔っていることがはた目にもわかるくらいの様子で帰ってきた。

すぐに話を聞きたかったので、ヤマトさんのマンションで待っていた私は、それを見てびっくりした。

あのヤマトさんがこんなふうに見えるってことは、想像もつかないような量を飲んだってことだ。


迎えに出た廊下で、どうでしたか、と尋ねると、スーツの上着も脱がないまま、ヤマトさんはぎゅうっと私を抱きしめた。

かなりきつい煙草のにおいがする。



『いい人そうだったよ』

『そうですか…』

『明るくて、嫌みな感じが全然なくて。たぶん頭もよくて、兄貴のことを、ちゃんと大事にしてくれてた』



顔を私の肩に押しつけて、くぐもった声でそう言う。

私は、胸が痛くなった。

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