ヴァイス・プレジデント番外編
じゃあ、帰りにひとりで飲んできたってことか。

めったにそんなこと、しない人なのに。


お昼はまだだと言う延大さんに、何かつくりましょうか、と提案しながらリビングに入りかけたところに。

背後で慌ただしい物音がして、寝室のドアがバンと開き。

振り向くと、起き抜けのヤマトさんの姿が目に入った。





「神谷ちゃん、料理うまいね」

「母が調理師免許を持っていて、それを見て育ったので」



冷蔵庫にあるものでつくった、チャーハンと野菜たっぷりの中華スープを食べながら、延大さんは喜んでくれた。

ダイニングテーブルの向かいで同じものを食べているヤマトさんは、無言だ。


延大さんの声に反応して飛び出してきた時は、Tシャツとボクサーパンツだけという、いつもの寝る時の恰好で。

何か言おうとした彼に、延大さんが、服着てこいよ、とあきれて言った。


手早くシャワーも浴びてさっぱりとしたヤマトさんの髪は、まだ濡れている。

早めに目を覚まして、自分の昼食は終えていた私は、キッチンで食後のコーヒーを淹れていた。



「…兄貴、今日もう、向こう行くの」

「そう、3時の便で」



じゃあもう、出ないとダメだ。

そんな間際に、寄ってくれたんだ。


いや、もしかしたら。

わざわざ間際を選んで寄ったのかもしれない。



「お前が、何か言いたそうだったからさ。顔見とこうと思って」

「別に…」



冗談めかして言う延大さんに、ヤマトさんが不本意そうに顔をしかめる。

ふたりが食事を終えたので、私は食器を下げて、コーヒーを出した。

いつもは自分で片づけるヤマトさんが、申し訳なさそうにお礼を言うのに首を振って、灰皿をふたりの真ん中に置く。

ありがとう、と笑って、延大さんがシャツの胸ポケットから煙草をとり出した。

< 115 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop