ヴァイス・プレジデント番外編
「俺、もう行くわ」
「あ、キャリーバッグ、お出しします」
腕時計を見ながら腰を上げる延大さんに、私は寝室に置いていたキャリーバッグをとりにいくために立ちあがった。
ヤマトさんは叱られた子供のようにうつむいて、頑なに延大さんを見ようとしない。
延大さんはそんなヤマトさんを見て苦笑すると、ぽんぽんと親しげにその肩を叩いた。
「お前にも、祝福してほしいよ」
ヤマトさんは、顔を上げず。
延大さんは、そんなヤマトさんの頭を一度くしゃっとかき回すと、私と一緒にリビングを出た。
「ヤマトのこと、よろしくね」
「延大さんも、お元気で」
玄関先でキャリーバッグを渡すと、延大さんが優しく笑った。
私は、あの、と少しためらいつつも、これだけは伝えないとと思い口を開く。
「お幸せに」
「ありがと」
にこっと笑って、背の高いその姿が玄関のドアを押し開けようとした時、リビングに通じる背後のドアが開く音がして、ヤマトさんが出てきた。
それを見てちょっと目を見開いた延大さんに、ヤマトさんの声がかかる。
「下まで行くよ」
「あっ、じゃあ…」
私も、と靴を履きかけた私を、足早に廊下を歩いてきたヤマトさんが、腕をつかんで押しとどめた。
「ここにいて」
見あげると、にこ、と微笑んで、安心させるように腕を軽く叩いてくれる。
返事をするより先に、延大さんを促して、ヤマトさんはドアを開けて出て行った。
閉まり際、ヤマトさん越しに延大さんが振り返って、にこやかに手を振ってくれた。