ヴァイス・プレジデント番外編
少しした頃、私の誕生日がやってきた。
まだあの塗りかえ云々が続いているらしいヤマトさんは、私が欲しがっていた長財布をプレゼントしてくれた。
そしてなぜか、綺麗なプラチナのペンダントを一緒にくれた。
なんでふたつ?
嬉しいけど、そんな疑問が湧いて、ヤマトさんを見ると。
カジュアルなフレンチレストランのテーブルについた彼は、すまなそうに笑った。
「ほんとは、指輪を贈ろうと思ってたんだ」
ダイヤのきらめく、小さなキューブ型のペンダントトップが、私の手元で揺れる。
ヤマトさんの言おうとした意味は、痛いくらい伝わってきた。
私の片手をそっととって、テーブルの上でヤマトさんが優しく握る。
「ごめんね、すず」
悲しく笑うその顔に、私は首を振るしかできない。
わかってます。
いいんですよ、ヤマトさん。
「俺、すずを待たせるよ」
その声に感じとれる痛みに、私は涙が目の奥を駆けあがってくるのを感じて、慌てて目を伏せた。
ヤマトさんは、私が待たされることに対して泣いたんだと思ったらしく、ぎゅっと手を握って、ごめん、とまた言ってくれる。
違うんです、ヤマトさん。
私は。
あなたの心の痛みが、つらくて、悲しくて、かわいそうで、泣きそうなんです。
そのくせ、待たせるかも、とか、待っててくれる? とかそんな言葉でもなくて。
待たせるよ、という一方的な断言だったことにヤマトさんらしさを感じて、それがまた悲しくて。
延大さんにも、こんな勝手さがあればよかった。
彼にも、平気で周りを振り回す厚顔さと傍若無人さが少しでもあれば、何かが違っていたかもしれなかった。
ねえ、ヤマトさん。
ヤマトさんも、そう思うから。
やりきれない気持ちなんですよね。