ヴァイス・プレジデント番外編
副社長であるヤマトさんが決裁できる企画は、一定の予算規模までと上限が決まっている。

規模の大きな企画は社長以上の決裁が必要になり、そうすると当然ながら、論破するのが難しくなる。

別に、ヤマトさんなら論破しやすいってわけでも、ないんだけど。

開発者と同じ思考回路を持ちあわせているので、わざわざ説明しなくても伝わる事柄が多いのだ。


ヤマトさんが社長か。

数年後には、そんな日が来るんだろうか。

その頃、私は、どうしてるんだろう。




延大さんは予定どおり入籍して、イギリスへと旅立った。

挙式はふたりきりで、向こうの教会でするという話で、のちに送られてきた写真で私は初めて奥様の顔を知った。

きりっとした知的な美人で、いかにもさばさばときっぷのよさそうな、弾けるような笑顔が素敵な人だった。





「打刻のシステムとですね、オープンソース環境へのログイン・アウトのレコードをひもづけられないかなって」



ふと思いついたことを言うと、ソファに寝っころがって煙草を吸っていたヤマトさんが私を見た。

しばらく私を見たまま黙って、ようやく口から煙草を離すと、なるほど、と言いながら身体を起こす。



「面白いこと考えるな」

「一緒に、余計なアクセスの制約にもなりますよね。物理的には、可能ですか?」

「できると思う。ただ打刻システムのデータは給与情報と直結してるから、そこと分けないと、機密の問題が発生する」

「管理部門側には影響が出ないように、開発側の改修だけで、なんとかなります?」

「インフラのほうは、俺も詳しくないから。システム部門に相談してみないとなんとも、だな…」



両ひざにひじをついて、考えこむように口に手をあてる。

指に挟んだ煙草の灰が長くなってきたので、灰皿を差し出すと、一瞬きょとんとして、あ、そっか、と慌てたように灰を落とした。


ふたりで過ごす、二度目の年始だった。

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