ヴァイス・プレジデント番外編
今度の金曜というのは、イントラネットのサーバメンテナンスの日で、夕方以降、一部を除いてサーバが使えなくなる。

つまり業務ができなくなり、ほとんどの社員が早く帰らざるを得ない。



「薫と飲むんだけど、すずも来ようよ」

「いいんですか」



いいに決まってるだろ、とシーツにうつぶせたヤマトさんが笑う。

ヤマトさんと城さんは、時間が許しさえすれば、ちょくちょく帰りがけに飲んだりしているようで。

秘書時代にそういうつきあいを提供できなかった私は、楽しそうなヤマトさんを見て、よかったなあと心から安堵していた。


こういう業界は、人の出入りが激しい。

まだ全員がこの会社にいる私の同期は例外的で、他の年次は、のきなみ3年目までに半分くらいの人数になっている。

ヤマトさんの同期なんて、たぶんもう、ほとんど残っていないだろう。


私が秘書時代に考えていたのとは違う方向に、ヤマトさんは孤独だったんだろうなと改めて知った。

顧問や杉さん、延大さんといった素敵な人たちに囲まれてはいても、同じ目線で何かを語れる相手は、どこにもいなかった。

つくづく、木戸さんの採用のセンスには脱帽だ。


読んでいた、ハードカバーの経済書を閉じて枕元に置くと、ヤマトさんが私に腕を伸ばす。

私も文庫本をサイドテーブルに置くと、目を閉じて、寄せられる唇を受けた。

控えめに冷房を効かせた部屋で、ヤマトさんが私を抱きしめて、髪をなでてくれる。



「伸びたね」

「そうですか?」

「前は、なんか、ここらへんだった」



言いながら、私の首の途中あたりを手で指し示す。

そうだったっけ、よく覚えていない。

今の私の髪は、肩と胸の間くらいだ。

これ以上はもつれてしまうので、髪質上、伸ばせない。


ふわふわと優しいキスを、ヤマトさんが何度もくれる。

見あげると、いい? と目顔で訊かれたので、いいですよ、というつもりでうなずくと、にこっと微笑んで。

首筋に柔らかいキスを落としながら、私のTシャツの中に熱い手を差しいれてきた。

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