ヴァイス・プレジデント番外編
最近のヤマトさんは、なんだかいつもこんな調子で。

まるで、私に触れるのがあまり感心できないことでもあるかのように、ためらいがちに振る舞う。

たぶん、延大さんに遠慮しているんだろう。

自分だけが好きな相手と好きに触れあえることに、罪悪感があるんだろう。

そして、私を待たせていることで、さらに追いこまれたような気持ちになってしまっているんだろう。


そんなの。

私も一緒に、悲しくなってしまう。

かわいそうなヤマトさん。

まだ、沈みこんだ心の淵から抜け出せずにいる。


ねえ、ヤマトさん。

私を待たせていることなんて、気にしなくていいんです。

私が待っているのは、ヤマトさんがまた以前のように何も気にせずに快活に笑ってくれる、その日なんですから。

いつになるか、何がきっかけになるのかわからないけれど。

そんな日が来たら、そこで初めて、私のことを気にしてくだされば、いいんですよ。

今は、私のことなんて考えなくていいんです。


私はこうして、そばにいるだけで幸せです。

大好きなヤマトさんの、そばにいるだけで。





「やっぱ夏はビールに限るよなあ」

「俺、夏って意外と、すっごい重い赤とか飲みたくなるんだけど、パンツ一丁とかで」

「変態だろ」

「嘘、すずもそう言ってたよね」



私はただ、涼しい部屋で冷たいビールだと冷えすぎるので、薄着の時は、案外常温の強いお酒のほうが心地いい、と言っただけです。

しかも、それを言った時は本当に最低限の衣服しか身に着けずにヤマトさんとくっついていた時なので、今とは事情が違います。

そのへんわかったうえで発言してくださいね、お願いですから。


という思いをこめて、きょとんとしているヤマトさんを見返すと、伝わらなかったらしく、目を丸くされた。

ビールで有名なドリンクメーカーが経営するこのビアホールは、さすが数えきれないくらいの種類のビールを楽しめる。

食べ物でお腹を満たしてしまうのがもったいないので、食事はおつまみていどに済ませ、私たちは次から次へとグラスを空けていた。

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