ヴァイス・プレジデント番外編
「ヤマトの奴、やっとひと段落したんだよ。夏休みもたぶん、フルでとらせてやれるよ」
「本当ですか」
城さんの言葉に、私は少し気が晴れた。
ヤマトさんが、どんな仕事で忙しくしているのかは私は訊けない。
それはもう完全なる機密事項で、いくらこういう立場とはいえ、私は部外者だからだ。
私も訊かないし、ヤマトさんも言わない。
それは、お互いのけじめのようなものだった。
「ヤマト、頑張ったよ。ほめてやって」
「頑張らざるを得なかったんだよ、薫がおっかないから」
実際おっかなかったんだろう、グラスに向かってぶちぶちとヤマトさんが文句を垂れる。
城さんはバーテンダーの前に並ぶビールサーバを物色しながら、それを無視した。
「薫は、もう少し俺に優しくしてくれてもいいと思うんだよね」
「ほら、これだよ、すずちゃんが甘やかすから」
「すずはすずで、けっこう厳しかったんだぞ。怒鳴られたことだってあるんだからな、俺」
なぜかいばるヤマトさんに、マジで、やるね、と城さんが眉を上げて私を見る。
余計なこと言わないで、と私は隣のヤマトさんをにらんだ。
あんな昔の話、今さら持ち出さないでよ。
「あれは、ヤマトさんが悪いんです」
「そりゃそうだ。いつだって悪いのはヤマトだよ」
「なにそれ」
誰も味方になってくれず、ふてくされたヤマトさんがグラスに口をつけた時、「あっ、と」と城さんがふいに声をあげた。
ごめん、と人差し指を口にあてて、胸ポケットから携帯をとり出す。
「秘書室、城でございます」
会社の電話だ。
今日は通常より早い時間に誰もいなくなってしまうから、留守番電話にせず、転送されるようにしておいたんだろう。
私とヤマトさんは口をつぐんで、城さんがきびきびと応対するのを聞いていた。