ヴァイス・プレジデント番外編
「確認いたします。お待ちくださいませ」
城さんは通話を保留にすると、向かいのヤマトさんに、おい、と声をかけた。
「お前、姉ちゃんなんて、いたっけ」
ヤマトさんが、ぽかんと城さんを見返す。
「兄貴しかいないと思ってたけど」
「でも、姉って言ってるぜ。ルリコって伝えてもらえればわかるって」
ヤマトさんと私は、はっと顔を見あわせた。
まさか。
城さんが不思議そうにこちらを見て、代わっても平気か? と尋ねる。
ヤマトさんはうなずいて、少し緊張した声を出した。
「兄貴の、奥さんだ」
「何か、言うことないの」
正面から、ベリーショートのうなじが綺麗な、さっぱりした美女に見すえられ。
ヤマトさんは、教師に呼び出された生徒みたいになっていた。
「俺からは、何も言えません」
「あなたたち兄弟は、私をナメてるのね」
ナメてません、とヤマトさんが言い張る。
けど、とても相手の目を見ることはできないらしく、その視線はうろうろとテーブルの上をさまよっていた。
もとから4人がけの席だったので、ルリ子さんが到着した時、私たちは空いていた席を彼女に勧めた。
どうも、と友好的に微笑んで、城さんの隣、すなわちヤマトさんの向かいに坐った彼女は。
突然の展開にまったくについていけていないヤマトさんに、いきなり手を伸ばし、ぐいと彼の顎を持ちあげると、その目をのぞきこんで。
「私に言っていないことがあるわね」
聞いているこちらの背筋が凍りそうな声を出した。