ヴァイス・プレジデント番外編
消え入りそうな声で、そう言って。
うつむいてしまったヤマトさんの頭を、延大さんが自分の肩に抱き寄せた。
仕方ないなあ、というように苦笑して、ため息をついて。
私と城さんと交互に目を見あわせると、おどけるように眉を上げる。
「なあ、ヤマト」
ぐしゃぐしゃと、遠慮なしに、ヤマトさんの短い髪をかき回すと。
兄弟に共通する、独特の響きの優しい声で言った。
「お前は、秘書に恵まれてるな」
「兄貴、最近、久良子さんと会ってるらしいよ」
「えっ!」
初夏の河川敷で、ぼんやりと座りこんでいた私は、その情報に一気に頭が冴え、隣を見た。
「まだ、いきなり結婚とかにはならないだろうけど、まあ、時間の問題だよね」
「よかったですね、本当に…」
よかった。
それしか言えない。
でも、100%よかったと言えるかというと、そうでもない。
「ルリ子さんは…?」
「それが、もう新しい彼氏がいるって話」
え! とまた声が出る。
「イギリスの方ですか」
「そうみたい。兄貴も複雑な顔してた」
そりゃそうだ。
安心半分、申し訳なさ半分てとこだろうか。
だけど中途半端を嫌う彼女が、適当に相手を選んだりするはずはない。
きっと今度こそ、一生かけてお互いに愛し抜く誰かを見つけたんだろう。