ヴァイス・プレジデント番外編
「どこか、行きたい会社、あるの」
「会社はどこでもいいんですが、いずれは企画の仕事をしたいです。でもまずは、営業をやってみたいんです」
「営業かあ」
うちの製品は、販路やユーザーがかなり決まっているため、営業にはそこまで力を入れていない。
店頭にずらっと並ぶような製品でもないし、最近では軸となる分野ではひとり勝ち状態で、競合もいない状況だからだ。
気がついたんだけど私は、自分のつくったものが「買われる」場に出会ったことがない。
どうやったらより「買ってもらえるか」、そんなことすら気にしたことがない。
なので、ちょっと、そういうところに携わってみたいな、と最近思いはじめたのだ。
「すずは向いてるかも。細やかだけど神経質すぎないし、意外と体力あるし」
「そう思いますか?」
嬉しい、頑張ろう。
だけどヤマトさんはどこか沈みがちで、言葉少なに河川敷の少年野球のゲームを眺めている。
もう、気にしなくていいのに。
ヤマトさんは、ここでもまた、好きという気持ちが予想外に大きな影響を与えてしまったことに、ショックを受けているんだろう。
そんなの当たり前なんだから、いいのに。
好きって、そのくらい大きなことなんですよ、ヤマトさんが無頓着すぎただけで。
隣に座りなおして、ヤマトさん、と声をかけると、立てた片ひざにほおづえをついた彼が、ん、と声だけで返事をした。
「一緒に待たせてくださったこと、私は、嬉しかったんですよ」
ぱっとこちらを見るヤマトさんの顔には、疑問符がありありと浮かんでいた。
ええと。
「巻きこんでくださって、嬉しかったんです」
見開かれた目から、「???」というメッセージが伝わってきたので、再び、ええと、と考える。
「ヤマトさんの、ご家族の事情に、私も影響されて。それって私が、ヤマトさんにすごく近い関係だったからでしょう?」
ヤマトさんが、少し理解したのか、ぱちっとまばたきをした。