ヴァイス・プレジデント番外編
「やっぱり一文字もらいたいです」
「重くない?」
「先祖代々ってわけじゃないですし」
そっか、とヤマトさんは納得した様子を見せて、具体的な候補考えないとなーとのんびり言った。
日に日に大きくなる私のお腹に手を回し、興味深げにさする。
「先に出てよ、すず」
「もうちょっと入ってたいです」
「怖くて俺、立ち上がれないよ」
その声が本当に不安そうだったので、私は仕方なくバスタブから上がった。
「明日は予定通り、お休み取れそうですか?」
脱衣所からバスルームを覗くと、気持ちよさそうに身体を伸ばしたヤマトさんがこちらを見上げ、うん、と湯気の中で微笑む。
「帰りにさあ、兄貴と久良子さんへのプレゼントも見てこようよ」
「そっか、向こうの新居に移られるんですもんね」
「イギリスの家って、なにが喜ばれるんだろ」
うーん、とふたりで考えてしまう。
私はバスタオルで身体を拭きながら、とりあえずいろいろ見てみましょう、と提案した。
* * *
最低。
「すず…」
「なんでしょう」
正直さがわざわいして安易に謝れないヤマトさんは、なにも言えずうつむいてしまう。
私は構わず、百貨店のワンフロアにある画廊に入った。