ヴァイス・プレジデント番外編
新居となるマンションのモデルルームを見てきたところだった。
お互いの職場にアクセスしやすく、若い世帯が多くて子供を育てやすそうな街。
一緒にあれこれ検討して、ほどよく閑静でほどよく便利な新興住宅地に決めたのだ。
そこまではいい。
問題は、そのモデルルームで私たちを迎えてくれた営業の女性が、ヤマトさんを見るなり「ヤマトじゃない、久しぶり!」と抱きついたところから始まった。
『私のこと覚えてる? あいかわらずいい男だね、こちらは奥さま?』
いらっしゃいませ、とにこりと微笑んでくれる顔は、はっとするほど美しかった。
背が高くて自信にあふれた、成功した女性そのものという感じの人。
別にここまでもいい。
ヤマトさんの昔の女の人に遭遇するなんて何度もあったし、いい加減慣れた。
今回私に深いため息をつかせたのは、ヤマトさんの反応のほうだ。
『え、すみません…ええと?』
彼はモデルルームの玄関で立ち尽くしたまま、戸惑いがちに問いかけた。
女性は吹き出し、手入れされた爪で愛おしげにヤマトさんの頬を叩く。
『やっぱり忘れちゃったか、私はしっかり覚えてるよ、ここの傷痕もね』
左の内腿をなでられたヤマトさんがびくっとし、続いて蒼白になった。
私と目が合うと、さらに青くなった。
「ほんとに知らない人だよ…」
「覚えてないだけでしょう?」
向こうがあれだけ親しげなのに、知らない人ってことないだろう。
静かな画廊を歩きながら、でも知らないんだよ、とヤマトさんが泣きそうな声を出す。
延大さんたちへの贈り物にと、思いついたのは絵だった。
洗面所とかキッチンとか、ちょっとしたところに飾れる小振りの絵。
お互いの職場にアクセスしやすく、若い世帯が多くて子供を育てやすそうな街。
一緒にあれこれ検討して、ほどよく閑静でほどよく便利な新興住宅地に決めたのだ。
そこまではいい。
問題は、そのモデルルームで私たちを迎えてくれた営業の女性が、ヤマトさんを見るなり「ヤマトじゃない、久しぶり!」と抱きついたところから始まった。
『私のこと覚えてる? あいかわらずいい男だね、こちらは奥さま?』
いらっしゃいませ、とにこりと微笑んでくれる顔は、はっとするほど美しかった。
背が高くて自信にあふれた、成功した女性そのものという感じの人。
別にここまでもいい。
ヤマトさんの昔の女の人に遭遇するなんて何度もあったし、いい加減慣れた。
今回私に深いため息をつかせたのは、ヤマトさんの反応のほうだ。
『え、すみません…ええと?』
彼はモデルルームの玄関で立ち尽くしたまま、戸惑いがちに問いかけた。
女性は吹き出し、手入れされた爪で愛おしげにヤマトさんの頬を叩く。
『やっぱり忘れちゃったか、私はしっかり覚えてるよ、ここの傷痕もね』
左の内腿をなでられたヤマトさんがびくっとし、続いて蒼白になった。
私と目が合うと、さらに青くなった。
「ほんとに知らない人だよ…」
「覚えてないだけでしょう?」
向こうがあれだけ親しげなのに、知らない人ってことないだろう。
静かな画廊を歩きながら、でも知らないんだよ、とヤマトさんが泣きそうな声を出す。
延大さんたちへの贈り物にと、思いついたのは絵だった。
洗面所とかキッチンとか、ちょっとしたところに飾れる小振りの絵。