ヴァイス・プレジデント番外編
「こういう、エッチングとかいいですよね、どこにでも合いそう」
「この画家知ってる」
私たちが目を止めたのは、誰もが知るシュールレアリズムの巨匠が描いた、シンプルな作品だった。
「兄貴、こういう有名な作家のマイナーな作品て絶対好きだよ」
「じゃあ、これ候補にしましょう」
その時、ヤマトさんの携帯が震えた。
足早に画廊を出て、はいと彼が応じる。
『ヤマト? さっき話してた内装の変更だけどね、インテリアデザイナーが来る展示会があるから、その日にまたおいで。よかったらその時、お茶でもしない?』
きっとさっきの人だろうと耳を寄せて聞いていた私は、横目でヤマトさんの反応をうかがった。
ヤマトさんは再び真っ青になって、お茶はちょっと、とかしどろもどろの返答をしている。
私はひとりで画廊に戻った。
「ケンカするなよ」
「してないよ、すずが勝手に怒ってるだけで」
「ですよね、すみません、勝手に」
ヤマトさんのマンションのキッチンでお茶の支度をしていると、ダイニングで包装を解いた延大さんと久良子さんが歓声をあげた。
「素敵」
「いいねー、これ、玄関に飾りたい」
「そうしたら私、この絵に合わせてお花を生けるわ」
よかった、喜んでもらえた。
彼らは入籍したものの日本ではまだ一緒に暮らしていないので、これからゆっくりふたりの生活を始めることになる。
幸せそうだなあとこちらも笑顔になった。
「額装は現地でしたほうが家と合うかなと、あえてしてないです」
「あー嬉しいね、やってくれる店、すぐに探そう、ふたりともありがとう」
「ところでヤマトさんは、どうしてその女性を覚えてらっしゃらないの」