ヴァイス・プレジデント番外編
切り込むね久良子ちゃん、と延大さんが感心したようなまなざしを送る。

私を手伝っていたヤマトさんは、ふて腐れたような声で反論した。



「覚えてないんじゃなくて、知らないんだって」

「べろべろに酔ってた時の相手とか」

「俺がどんなに飲んでも記憶は飛ばないの、兄貴だって知ってるだろ」

「日頃の行いって大事ねえ」

「こういう時の信用に、如実に出るよねやっぱり」



いまや私の義兄夫婦となったふたりが、これみよがしに息をつく。

ヤマトさんは悔しげに黙り、それでもなお身に覚えのないことについては謝れないらしく、ごめんとは言わなかった。



「ちなみにどんなタイプ?」

「綺麗な方です、モデルルームのフライヤーにも載ってるくらい」



カタログや見積もりの入った封筒からそれを取り出す。

受け取ってしげしげと眺めていた延大さんの眉が、だんだん寄っていった。

なにかとんでもない暴露ネタでもあるのかと、かたずを飲んでみんなが見守る中、やがて延大さんは顔を上げ、ヤマト、と声をかける。



「お前の高校の水泳部の冊子あったろ、あれ持ってこい」

「女子部のなんてないよ?」



きょとんとするヤマトさんに、延大さんはうなずいた。



「男子部のだ」





「すず、本気で俺を疑ってたよね…」

「だって…」



形勢逆転だ。

枕に頬杖をついて、ヤマトさんは冷ややかな視線を送ってくる。

私にも言い分はある。

延大さんたちの言った通り、そもそもはヤマトさんの過去の所業が悪いわけで、そして今回の話をするなら、あの綺麗な人がもとは男性だなんて思うわけないじゃないか。

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