ヴァイス・プレジデント番外編
私はもう、ろれつが回らないのも気にならず。

どうしても舌ったらずになる私の言葉を、真似しては可愛いと笑う彼に、腹を立てつつも思いきり甘えて。

こんなに何ひとつ飾らず、思ったとおりに喋って動いて笑うのは、いったいどのくらいぶりだろうと思い、幸福に包まれた。


いったい今が何時なのかもわからないまま、飲んでは笑い、ワインがこぼれるのもかまわず、抱きあってキスをして。


話し疲れて、落ちるようにふたりで眠りについた時には、確かもう空は少し白みはじめていて。

明るい部屋でふと同時に目を覚ました後、寝ぼけまなこのまま、残ったお酒を飲んで、もう一度愛しあって。

終わるなり、またお互い寝てしまったらしく、次に目を覚ましたのはチェックアウトぎりぎりの時間だった。


私はそこでやっと、用意しておいたカフスボタンとネクタイピンのセットを渡すことを思い出し。

彼は大喜びしてくれたけれど、やっぱりふたりとも、笑いがとまらなかった。



好きですと言えなくて、ごめんなさい。

言わせようとせずにいてくれて、ありがとう。

言わずにいてくれて、ありがとう。


あなたといると、楽しいの、延大さん。

こんなに解放的な気分になれる場所は、他にないの。


でも、今より先のことは、考えたくないの。

まだ、考えられないの。



 * * *


「いつかは、手を出すと思ってたけど」

「ヤマトさんて、全然そんなふうに見えないのに」

「だろお」



煙草をくわえて、うんざりしたように頭をかく。

延大さんの部屋は、予想外にシンプルな、こぢんまりとしたロフトタイプのワンルームで、初めてつれて来られた時は驚いた。

聞けば留学時代の部屋も手放さずに持っているから、日本の住まいはこれで十分なのだそうだ。

ロフトの上は完全に寝るスペースになっていて、ごちゃごちゃと英語と日本語の本が積みあげられている。

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