ヴァイス・プレジデント番外編
原書で読むほうが頭に入るんだよね、と以前言っていた。

システムとビジネスの言語は、まったく翻訳されていないか、されていても適切に訳されていないからだ。


寝床で煙草を吸うのは危ないと何度言っても、知ってる、と言うばかりでやめない。

私の言うことならなんでも聞くとばかりにお姫様扱いしておいて、結局のところは、これだ。

当たりは柔らかいくせに絶対自分を曲げないところは、CEOにもヤマトさんにも共通していて、なんだかおかしくなった。



「あいつは昔からそうなんだよ。シャイなのも本当なんだけど、なんでか並行して、相当な遊び人なんだ」

「お兄ちゃんとは、逆ってことかしら」

「真逆だね」



真面目くさってうなずく耳に噛みついてやると、くすぐったそうに首をすくめる。

裸の肩は、さっきまでの余韻を残してまだ汗ばんで、心地よいほてりを残していた。


嘘ばっかり。

見た目ほど軽薄じゃないけれど、そのあとに受ける印象ほど純情な紳士ってわけじゃないことは、私がよくわかってる。

ヤマトさんとはまた別の方向に女の子が近づきやすいタイプだから、それなりにいろいろあったに違いない。

弟よりほんの少し生真面目だったおかげで、落ち着くのが早かったってだけだ。



延大さんとこうなりだして一年後の春に、秘書室に新しい女の子がやってきた。

新入社員のその子は、真面目で奥ゆかしく、非常に器用で賢い可愛い子で、私たち3人の妹分のような存在として、めきめき秘書として成長してきた。


3年目になる時、副社長に就任したヤマトさんづきとなった彼女は、いつの間にやら、というか本人たち以外は全員なんとなく予想していたとおり、ヤマトさんと結ばれた。

お兄ちゃんは、それが微妙に申し訳なく思えて仕方ないらしい。



「ヤマトは狙った女の子、外したことないから。勢いに飲まれて食われちゃったんじゃないといいけど、神谷ちゃん」

「すずちゃんは、おとなしく見えても、そんなおバカさんじゃないわよ」


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