ヴァイス・プレジデント番外編
「ヤマトもしっかりしてきたし、もう俺が口を出す必要もないからね。日本の企業と仕事はするけど、親父の会社からは離れるよ」
「そうなの…」
独立を喜ぶべきなんだろう。
誰もができることじゃない。
けど、私は、そうなってしまった彼と、どういう関係でいたらいいんだろう?
あまりに自分に何も言う資格がないことに今さら気がついて、愕然とした。
さみしいとすら、言う権利なんてないんじゃないだろうか、私は。
久良子ちゃん、と呼ばれて、自分がじっとお箸置きを見つめていたことに気づいた。
はっと顔を上げると、まっすぐに私を見る彼の目とぶつかる。
「俺と、結婚してくれないかな」
息が止まったかと思った。
たったの一瞬で、私は息苦しくなるほど呼吸が乱れ、目をそらしたいという欲求に必死に抗って、延大さんの目を見つめ返した。
ひざに置いていたハンカチを握りしめる手が震える。
私。
私、なんてことを。
なんてことを、してしまったんだろう。
「──ごめんなさい…」
延大さんは、私がそう答えることをわかっていたかのように。
少し悲しげに、さみしげに、けれど優しく微笑んで、うなずいた。