ヴァイス・プレジデント番外編
「ちょっと久良子、どういうことなの」
昼休憩に入るなり、和華が詰め寄ってきた。
すずちゃんの後任秘書には聞こえないよう、私を廊下の隅へと引きずっていく。
「あんたたち、つきあってたんじゃないの」
「よく知ってるわね。微妙に違うけど」
はぐらかすんじゃない、とぴしゃりとたしなめられた。
「どう考えたって政略結婚じゃない。延大さんはどういうつもりなの。あんたは納得してるの?」
「無理やり押しつけられて結婚するような人じゃないわよ。彼なりに、相手に惹かれたから、したんでしょ」
「そこじゃないよ、言いたいのは。あんたはどう思ってるのってこと」
そんなの、私が知りたいわよ。
何をどう思えばいいっていうの。
幸せになってほしいわよ。
それしか言えない。
他に私が思うことなんて、ある?
「泣きそうな顔してますよ、安杖先輩」
「嫌味な子ね」
じろっとにらむと、私よりさらに背の高い和華が、涼やかににやりと笑う。
私と和華は高校時代に、一瞬だけ顔を合わせている。
お互い、この秘書室で再会した瞬間に相手を思い出した。
私と和華の高校は、校舎は違うけれど同じ私立の系列校で、定期戦と呼ばれる校舎対抗の運動行事などで行き来があり、特に生徒会は密に連絡を取り合っていた。
私が副会長を引退する時、向こうの書記に就任したひとつ下の女の子が和華だった。
引き継ぎのために設けられた会合で一度だけ、私たちは会っていたのだ。