ヴァイス・プレジデント番外編
まだ、結婚して一年と少し。

そもそもお相手がお母様の取引先のお嬢様だったことを考えれば、よほどのことがない限り、離縁などしたくてもできないはずだ。

ましてやあの彼がそんな選択をするなんて、いったい何があったというのだろう。



「ヤマトさんたちも、あまり詳しくは知らされてないみたいだけど。奥さんのほうが、離婚には積極的だったみたいね」

「別にもめたわけでもなくて、結果的には円満離婚だったとは聞いたわ」



裁判になったり、慰謝料が発生したりするような別れ方にはならずに済んだってことか。

彼は今、どんな思いでいるだろう。

一生を共にするつもりだったであろう女性と、そんなふうに別れなければならなかった痛みは、どれほどだろう。


なんとなく、相手の女性を加害者のように考えている自分に気がついて。

私だってかつて、同じように彼を傷つけたことに、思い至って。

無意識に、奥様と自分を重ね合わせている自分のおごりに、吐き気がした。



「お元気かしら」

「結婚なさってから、私たちも一度もお会いしてないのよ」



和華の言葉に、暁もうなずく。

そうなのね。

どうしているんだろう。

今は、どこに住んでいるんだろう。


けれど私には、そんなことを思う資格もないのだという気がした。


お盆には、また手を合わせに来たいわ、と言いながら、ふたりが去った。

夕食の買い物に行く時間になっていたので、いつものように、1階の一番奥にある母の部屋をノックする。

ドアを薄く開けて、今日は何を食べたい? と尋ねると、なんでもいいわ、と無気力な返事があった。

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