ヴァイス・プレジデント番外編
17歳で私を生んだ母は、まだ50歳にもならない。

それが自慢だったわけではないけれど、どの友人の母と比べてもひときわ若く美しかった母は、今では見る影もなく痩せ衰えて、急激に老いていた。

一日中、部屋にこもっては好きな本を読んだり、ぼんやりと音楽を聴いたり。

元から現実と折り合いをつけるのが下手だった彼女は、夫を喪ってからその傾向がより強くなった。


いつまで甘ったれてるの、と言ってやりたくても、伴侶を失った喪失感がどれほどのものか、経験のない私にはわからず。

決定的な言葉を突きつけたら、それこそ母が壊れてしまうのではないかと思って、できなかった。


何か、彼女の喜ぶものを食べさせてやりたいと思っても、常に大黒柱である父を上に置き、家政婦のような地位に甘んじていた母が、食の好みなどを口にした記憶は一切ない。

結局私にできるのは、栄養の偏らない、温かい料理を食べさせることだけだった。



仕事に出ている時だけが、私の自由な時間だった。

仕事だけしていればいい時間。

部屋から物音ひとつしなくなったことに気がついて、青くなって駆けつけたりしなくていい時間。


あんな状態の母を置いて家を空けることに、罪悪感を抱かないわけはない。

でもこの時間がなかったら、私は窒息してしまう。

そしてその苦しさから、きっと母を責めてしまう。

そうならないためにも、時間をやりくりして仕事を続けるのは、私にとって重要だった。



一周忌は、私と母だけで簡素に行った。

お通夜と告別式を、秋田でなく都内で行ったことで、向こうの親戚が腹を立て、その後の法事には参加しないと言ってきたからだ。

そのほうが楽、と正直ほっとした。

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