ヴァイス・プレジデント番外編
あまりに覚えのある、懐かしいその声に、振り向くこともできず身体がこわばる。
砂利を踏む軽い音がして、一段高くなっている墓地のすぐ下に彼が立ったのを感じた。
「お父さんは、ちょっと急ぎすぎたね」
変わらない、どこか陽気でのんびりと、だけど誠意のこもった、柔らかい声が続ける。
「俺、適当な気持ちで結婚したんじゃないんだよ」
知ってるわ、そんなこと。
そういう人だもの。
それが、あなただもの。
「一生大事にしていこうと思ったし、間に合わなかったけど、子供だってつくろうと思ってた」
昔、母から譲り受けた、サンゴの数珠を握りしめる。
それでよかったのよ、延大さん。
そうするべきだったの。
あなたには、そんな人生が似合ってる。
「でも、ダメだったよ」
苦く笑うような声が、心に突き刺さる。
この人は、どれだけ傷ついたんだろう。
優しく笑いながら、どれほどの痛みを、ひとりで抱えてきたんだろう。
女房はね、という言葉に、ずきんと胸が痛むのを感じて自分にあきれた。
そんな反応をする権利は、私にはない。
「全部、わかってて。結局、俺じゃない人を探してくれたんだよ」
私はもう、息をすることすらできず。
いつの間にか強さを増した風に髪をなぶられながら、祈るような想いで彼の声を聞いていた。
どうか、もう言わないで。
それ以上、言わないで。
今言われたら、私は。
今度こそ、あなたの手を、放せなくなる。
砂利を踏む軽い音がして、一段高くなっている墓地のすぐ下に彼が立ったのを感じた。
「お父さんは、ちょっと急ぎすぎたね」
変わらない、どこか陽気でのんびりと、だけど誠意のこもった、柔らかい声が続ける。
「俺、適当な気持ちで結婚したんじゃないんだよ」
知ってるわ、そんなこと。
そういう人だもの。
それが、あなただもの。
「一生大事にしていこうと思ったし、間に合わなかったけど、子供だってつくろうと思ってた」
昔、母から譲り受けた、サンゴの数珠を握りしめる。
それでよかったのよ、延大さん。
そうするべきだったの。
あなたには、そんな人生が似合ってる。
「でも、ダメだったよ」
苦く笑うような声が、心に突き刺さる。
この人は、どれだけ傷ついたんだろう。
優しく笑いながら、どれほどの痛みを、ひとりで抱えてきたんだろう。
女房はね、という言葉に、ずきんと胸が痛むのを感じて自分にあきれた。
そんな反応をする権利は、私にはない。
「全部、わかってて。結局、俺じゃない人を探してくれたんだよ」
私はもう、息をすることすらできず。
いつの間にか強さを増した風に髪をなぶられながら、祈るような想いで彼の声を聞いていた。
どうか、もう言わないで。
それ以上、言わないで。
今言われたら、私は。
今度こそ、あなたの手を、放せなくなる。