ヴァイス・プレジデント番外編
俺の家族を、うらやましいって言ってくれたね。
耐えきれず胸に崩れこんだ私を、温かく抱きしめながら彼が言った。
「久良子ちゃんも、その一員になってよ」
でもね、延大さん。
私には母がいるの。
あんな状態の母を、あなたに負わせるわけにはいかない。
とめどなく流れる涙に濡れる顔を両手で覆って首を振ると、延大さんが、ぎゅっと腕に力をこめて、私の耳に優しく頬を寄せた。
「久良子ちゃんの背負ってるもの、俺にちょっと、分けて」
励ますように、私の頭をなでながら続ける。
「俺、けっこう能天気に育ったから、余力あるし」
私はもう、熱い涙が頬も手も濡らして、何も答えることができなかった。
そうじゃないことくらい、知ってる。
長男という重責を、痛いくらい意識しながら育って、だからこそ延々と私を待つわけにいかなかったあなたの葛藤を、私は知ってる。
子供のように嗚咽を漏らす私に、彼がちょっと苦笑したのが感じとれる。
彼にさわってもらうのが好きで、伸ばしたままにしていた髪を、昔のように梳きながら、陽気な声が言った。
「ふたりで持てば、案外、楽しいかもしれないよ」