ヴァイス・プレジデント番外編
「慶太、お前の小学校も見てこような」
「ショウガッコウって?」
プライマリースクールだよ、と延大さんが説明する。
この春から、私たちは日本に定住することを決めていた。
子供たちの教育は腰を据えて受けさせたいというのが、元からの意向だったからだ。
流浪の子供時代を送った私は特にその思いが強く。
転々と住みかを変える生活だけは、子供たちに味わわせるまいと、固く心に誓っていた。
ロンドンのビジネススクールの講師をしていた延大さんは、その仕事を辞めて再びコンサルティング業に専念することにし、それなら世界中どこにいたってできる。
今回、三男の和之さんの結婚式を主目的に帰国する機会を使って、少し長く滞在し、家を探すことにしていた。
一時的にマンションに住み、少し子供たちが大きくなったら郊外に家でも建てよう、と延大さんは言う。
「ニッポンで、タイガに会える?」
「会えるよ」
イエス、と叫んで、床にあぐらをかいてスーツケースの中身を詰めていた延大さんの背中に、慶太がベッドから飛びつく。
それを見ていたさくらが、真似をしてさらに抱きついたので、延大さんは、またもや荷造りどころじゃなくなってしまった。
大河というのは、慶太と同い年の従兄弟だ。
「こいつ、こんな日本語と英語ちゃんぽんで、いじめられないかな」
「日本の学校に通えば、すぐ英語を忘れるわよ」
そして時が来たら、思い出すだろう。
私もそうだった。