ヴァイス・プレジデント番外編
「なにその、大量のお茶」
「お義父様がお好きだから」
メイソンのグリーンティだ。
彼が執務室で、好んで飲んでいたものだ。
子供たちを両脇に抱えてあやしながら、延大さんが面白くなさそうな声を出す。
「久良子ちゃんは、親父の娘になりたくて、俺と結婚したんだもんね」
「そうよ」
だから何? と眉を上げて言い返す。
このやりとりも毎度のことだ。
「ルリさんが、東京のお土産のリクエストを持たせてくれたわよ、よろしくね」
メモを見せると、首を伸ばして内容を確認した延大さんの眉が寄る。
「あいつ、下町だっけ」
「そうみたい」
メモには、雷おこしやみつまめなどの昔懐かしい味が並んでいた。
確かに、日本を長く離れると食べたくなる味だ。
「黄身しぐれって、こっちまで持ってこられるのかな…」
「帰る当日に買ったらどうかしら」
スケジュール調整しなきゃなあ、と延大さんが息をつく。
日本でもまだ仕事を持っており、毎月必ず1週間ほどは日本に滞在する彼だけれど、家族全員でというのは、年に数回だ。
自然、予定も立てこんでおり、彼が悩むのもわかる。
ルリさんというのは、延大さんの最初の奥さんだ。
日本人女性の集まりで出会い、意気投合した後で、お互いに延大さんという共通項があることを知った。