ヴァイス・プレジデント番外編
私たちの結婚よりも早く、現地の男性と再婚していた彼女は。

さばさばと陽気な性格で、今の夫に出会えたのも延大と結婚したおかげ、と言いきって笑うくらい、底抜けにポジティブな人だ。

私たちがお互いを気に入ってしまったことで、つきあいは続いており、延大さんはいまだに複雑な面持ちでそれを見守っている。



「お義父さんのお墓にも寄りたいね」

「できたらでいいわ。お盆にも行ってるし」



高台にあるあのお墓は、こんな冬に行くにはなかなか寒い。

無理しなくていいわよ、と言うと、延大さんは優しく笑って首を振る。



「お義母さんひとりじゃ、行くの大変でしょ。つれてってあげないと」

「あの人は、延大さんが一緒に行ってくれるのを楽しんでるのよ。お墓なんてどうでもいいの」



数年前、祖父母の骨について親族と返却の約束をしたことを打ち明けた時、彼女はからからと笑って、そんなの返しちゃって、と手を振った。



「お墓の中にお父さんがいるわけじゃないもの。骨なんてどうでもいいわ。今すぐにだって返してきたいくらい」

「そうなの?」

「そうよ」



地域の仕事などに加わりはじめて、すっかり若い頃の美しさをとり戻した母がにこりと笑む。



「私たちが、彼をいつも心に想い描いていれば、それでいいのよ」



それはとても納得できる論理で。

そうね、と私はうなずいた。


けれど今、あのお墓には、返す約束のない祖父母の骨が眠っている。

母はああ言うけれど、父の遺志として、永遠に一緒に納めてあげたいと、もう一度私が交渉に行ったのだ。

< 59 / 151 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop