ヴァイス・プレジデント番外編
彼の生前、私はあまり、いい娘ではなかったから。

両親を誇ることなく、いろんなことを彼らのせいにしてきたから。


このくらい、させてもらいたかった。





「お義母さん、会うたび綺麗になるもんね。久良子ちゃんと姉妹みたい」

「だって実際、あなたと和之さんの歳の差に6年加えただけなのよ」



そっか…と延大さんが再び愕然とした表情になる。

子供たちが結婚式で着る服を、別のスーツケースにふわりと詰めながら、私は笑った。



「さくらだって、16歳になれば、そんなふうに結婚するかもしれないのよ」

「ほんと勘弁して、その話だけは…」



うなだれる彼の首にさくらが腕を巻きつけて、けっこんてしってるわ、と賢そうな顔つきで言ってみせる。



「カズおじちゃんが、するのよね」

「バカだな、パパとママだってしてるんだよ。わかってるか? 幸せなことよって、ママが言ってたろ」



お兄ちゃんらしく、偉そうに教える慶太に、さくらもわかったふうに真剣にうなずいて、さくらもするからね、と神妙に言った。



「さくらのしあわせはパパのしあわせって、パパ、いつも言うものね」



時と場合によるんだ、と大真面目に首を振る延大さんの背中を、クローゼットに向かいざま、子供たちに見えないよう私は蹴った。


ねえお母さん。

私は手探りながらも、なんとか妻であり、母である自分を生きてるわ。

夫と子供たちにしてあげたいことはすべて実行して、なんとなく、それが最良の道かもってつかみはじめてきてる。


でもね、不思議なの。

それって全部、昔あなたが、私にしてくれてたことなのよ。

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