ヴァイス・プレジデント番外編
「愛してるわ」
「俺もだよ」
頬にキスをしながら言うと、むっつりと返事があって笑ってしまう。
「さくらも、パパあいしてるわ」
「パパもさくらを愛してるよ、ママの次にね」
「いつ、ママのつぎじゃなくなるの?」
可愛らしい眉を寄せて、父親のひざに抱かれながら顔を見あげるさくらに、延大さんが優しく笑う。
「いつまでもママの次だよ、ごめんな」
ぷっと頬をふくらませる娘を、彼がぎゅっと抱きしめて、それだけで彼女は機嫌を直したようだった。
「女はこわいよ、パパ。気をつけて」
「慶太、そんな台詞、どこで覚えた」
「ヤマトおじちゃん」
あのヤロ、と小さく舌打ちをするのに、子供が真似するでしょ、とたしなめる。
おじいちゃんたちに会う時、着たい服を自分で選びなさい、と言うと、子供たちが大はしゃぎでクローゼットの中に駆けこんだ。
延大さんと笑いながらそれを見守る。
時折、幸せすぎて涙が出そうになることがある。
ここに来るまでにたどった愚かな道も、たまらなく愛しく思える時がある。
床についていた彼の手に自分の手を重ねると、彼がちょっと眉を上げて私を見た。
こんな今をくれたのは、この人だった。
どうしてか、私をずっと待ち続けてくれた、この人だった。
愛してるよ、とささやきながら、彼が柔らかいキスをくれる。
私もよ、と心の中で返す。
ねえ、私もあなたに何かあげたいの。
何をあげられるかしら。
一生かけたら、何か見つかるかしら?
俺はもう、何もいらないよ、と彼は笑う。
無欲なんてなんの美徳でもないわ、とすねてみせると、彼がおかしそうにまた笑った。
めいめい選んだ服を持って、子供たちが戻ってくる。
私たちを引き離すようにひざに乗っては、親のキスをせがむ。
それに応えながら、じゃあ、そうだなあ、と延大さんがつぶやいた。
子供たちの頭越しに、私に唇を寄せてくれる。
息子を抱きながら、それを受けようと首を傾けると、触れる直前、彼がいたずらっぽく片目をつぶった。
「とりあえず今夜は、子供たちと別に寝ようか」
Fin.