ヴァイス・プレジデント番外編
「俺、はそのままでいいと思いますよ。ですますだけ気にしてみましょうか」
「うまくいくかな」
「語尾にひっぱられて、全体の語調も整うと思います。ついでに言わせていただきますと、ヤマトさんは、フランクすぎるんですよ」
社内でも、たいていの人にはタメ口でしょう、と指摘され、先輩が、うん、と小さく反省したような声を出す。
「感覚としては、役員朝礼の感じですね。知っている人ばかりですが、公式の発言をなさるでしょう?」
「ああ、そっか」
なるほど、とヤマト先輩が得心したように笑う。
少し身をかがめて彼の相談を受けていた秘書さんは、にこっとつつましく微笑んで、「私も同席したほうがよろしいですか?」と先輩に尋ねた。
「うん、いて」
「かしこまりました」
失礼いたします、と私に断って、先輩からひとつ空けた下座の席に腰を下ろす。
メモをとるんだろう、ペンと手帳を用意して、もうインタビューを聞く準備を整えている彼女は、知的で頼もしい。
私は改めてレコーダーのスイッチを入れ、質問を開始した。
「就任された時の、正直なお気持ちは?」
「動転して、ました。実のところ、もう一期、先になるかと思っていたので」
謙虚な答えに吹き出すと、先輩も秘書さんも、楽しそうに笑う。
場がほぐれてきた。
これは、いいインタビューがとれそうだ。
「今は?」
「周囲に助けられて、求められている程度には、なんとか務まっていると思います」
そう言って、ヤマト先輩が一瞬、優しい視線で秘書さんを見る。
秘書さんは自分の手帳から顔を上げず、だけどその口元は柔らかく微笑んでいた。
「なぜ、副社長になりたいと?」
こうして会ってみても、やっぱり先輩がそんな野心家とは思えない。
ずっと気になっていたことをぶつけてみると、ヤマト先輩は、ちょっと意表を突かれたように目を見開いて、同じタイミングで顔を上げた秘書さんと目を見合わせる。
それからちょっと照れたような、困ったような、あの昔とちっとも変わらない微笑みを浮かべて。
「内緒です」
恥ずかしそうに、そう言った。