ヴァイス・プレジデント番外編


「『秘書課・開発分室』ですって、私…」

「いいじゃん、合ってるじゃん」



あっはっは、と無責任に明るく笑うヤマトさんを、テーブルを叩いて黙らせた。



「開発に入ったからには、開発の人間になりたいんです」

「仕方ないだろ、役員のことに精通してるのは確かなんだし」



私がむくれているのが楽しいらしく、テーブルに頬杖をついてにこにこしている。

お流れ続きで、ようやく実現したランチが嬉しいのかもしれない。

そういえば久しぶりな気がする、爽やかなワイシャツ姿を改めて眺めた。


開発に異動して1ヶ月足らず、私は新しい環境と業務と仲間に慣れるのに必死で、脇目も振らずに働いてきた。

秘書課からの異動は珍しいというか、皆無といってもいいので、最初は腫れもの扱いされるのを覚悟していたのだけれど。

よく考えたらこの会社は、CEOの息子3人を開発仲間として迎えた土壌があるわけで、意外とみんな、最初から気さくだった。

元開発であるヤマトさんづきだったことにも、親しみやすさがあったのかもしれない。


ただ、やっぱり「元秘書」という扱いは避けられず。

けれどどちらかというとそれは、敬遠というより、便利屋のごとき存在として、だった。


役員のスケジュール確認はもちろん、アポとっといて、だの、しまいには公式文書の添削まで頼まれる始末で。

私はもう役員スケジュールにアクセスする権限すらないんだと言っても、なぜかみんな私のところに持ち込む。

お見舞いってのしつけていいの、だの「お手続き」と「ご手続」ってどっちが正しいんだっけ、だの、一般常識についても訊かれる。

訊かれると懇切丁寧に答えてしまう自分もいて、もう私はそういうポジションなのかもしれない、と思いつつもあった。



「そうやって、コミュニケーションとってるんだろ」

「そうなんでしょうね」


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