ヴァイス・プレジデント番外編
私みたいな存在を迎えるのに、それが適した接触方法だと、みんな考えたんだろう。

事実、持ち込まれるたびどんどん顔も名前も覚えるし、ちょくちょく会話もできるし、仲よくなる。

なんだか、秘書室とは別世界だなあとしみじみ思った。


春野菜のサラダパスタが運ばれてきて、そのカラフルさに思わず、わあと声が出る。

自宅では洗えないような服ばかり着ていた頃とは違って、すっかりカジュアルになったワードローブだと、ランチも気楽だ。

ひざにハンカチを置くのは必須だったのになあ、と懐かしく思いながら、デニムのショートスカートを見下ろした。



「城(じょう)さんとは、うまくいっていますか?」

「うん」



器用にパスタを巻きつけながら、ヤマトさんがにこっと笑う。

城さんというのは、私の後任の秘書さんだ。

そっか、よかった、と思っていると、ヤマトさんの胸ポケットの携帯が光った。

ん、と声を発してそれをとり出した彼が、画面を確認して、少し操作して再びポケットに戻す。



「いいんですか、出なくて」

「うん」



知らない、という感じでのんきに食べ続けるヤマトさんの背後で、お店のドアがチリンと鳴った。

カジュアルなカフェに似合わない、すらっとしたスーツ姿の男性が入ってくると、少し店内を見回して、迷わずこちらに歩いてくる。

つかつかと歩み寄ってきたその人は、私たちのテーブルからメニューボードを取り、それで容赦なくヤマトさんの頭を叩いた。

パン、という小気味いい音が、決して広くない店内に響き渡る。



「いって!」

「シカトしてんじゃねえよ」



やっぱり、さっきの電話は彼だったんだ。

殴られるまで彼に気がつかなかったらしいヤマトさんは、目を丸くして振りあおいだ。

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