ヴァイス・プレジデント番外編
「なんで、ここがわかったの」
「お前のチャットのログは、俺も共有してるんだよ、忘れたか」
忘れてたんだろう、ヤマトさんが渋い顔で私を見る。
私はもちろん、覚えてましたよ。
別に行動をチェックするためでなく、社員から不当な直訴や嫌がらせなどを受けていないかを確認するための仕組みだけど。
「…なんか、急ぎの用事?」
「午後のアポを繰り上げてくれって、先方から急な連絡」
「断ってよ、そんなの」
「アホか、そこ対応して恩を売るだけの価値がある相手だろうが。休憩なんて後でとらせてやるから、戻ってこい」
「すずは、今しか昼休みじゃないんだよ」
「私のことはお気になさらず、戻ってください」
どうぞどうぞ、と手振りで促すと、不服そうな顔ににらまれた。
「わりいね、すずちゃん」
「いえ」
片手を顔の前に拝むように立てて、城さんがすまなそうに笑う。
私はまったく構わなかったので、ひとりになりそうなのを幸い、読みかけの本をバッグから取り出した。
それを見て観念したのか、ヤマトさんがため息をつきながら立ちあがる。
「ポケットに突っ込むなっつってんだろ。お前がやると、シワになる」
「食い物で汚すより、いいだろ」
「汚さないのが、ベストだ」
垂れないように、胸ポケットに先を入れていたネクタイをぐいと引っぱり出され、不満を漏らすヤマトさんを城さんが一蹴した。
ヤマトさんは何も言えず、むっつりと黙ったまま、ネクタイを整えてくれるに任せている。