許嫁な二人

    「お願いです、私、帰りたいんです。」



 目の前に立ちふさがる人にそう言っても、なかなか前を
 どいてもらえない。

 唯は、ぎゅっと唇をかんだ。



   「いやあ、君みたいな女の子探していたんだよ。
    ちょっとした読者モデルからはじめてみれば
    いいからさ、どうかな。」



 少しお酒臭い息をするその男の人は、何回断っても、さっきから
 同じことを言っている。



 女湯の入り口が見える自動販売機の隣で、良世たちを待っていたのに
 いきなり現れた男の人に、腕をぐいぐいひっぱられて、廊下の角まで
 つれてこられた。

 はやく戻らないと良世たちと合流できなくなってしまう。

 どうしてこんなことになったのか、、、泣きたい気持ちになったとき



   「おい、そこをどけよ。」



 そう声がして、酒臭い息をはいていた男の人は振り返った。

 男の人の肩越しに、ぎっと男の人を睨みつけている透が見えて
 唯は ”あっ”と声をあげた。



   「なんだぁ、知り合いかぁ?」



 男の人がこんどは体ごと透の方へ振り返るのと、透が男の人の
 スリッパを履いた素足を だん!とふみつけるのが一緒だった。



   
 
< 12 / 164 >

この作品をシェア

pagetop