許嫁な二人
「お願いです、私、帰りたいんです。」
目の前に立ちふさがる人にそう言っても、なかなか前を
どいてもらえない。
唯は、ぎゅっと唇をかんだ。
「いやあ、君みたいな女の子探していたんだよ。
ちょっとした読者モデルからはじめてみれば
いいからさ、どうかな。」
少しお酒臭い息をするその男の人は、何回断っても、さっきから
同じことを言っている。
女湯の入り口が見える自動販売機の隣で、良世たちを待っていたのに
いきなり現れた男の人に、腕をぐいぐいひっぱられて、廊下の角まで
つれてこられた。
はやく戻らないと良世たちと合流できなくなってしまう。
どうしてこんなことになったのか、、、泣きたい気持ちになったとき
「おい、そこをどけよ。」
そう声がして、酒臭い息をはいていた男の人は振り返った。
男の人の肩越しに、ぎっと男の人を睨みつけている透が見えて
唯は ”あっ”と声をあげた。
「なんだぁ、知り合いかぁ?」
男の人がこんどは体ごと透の方へ振り返るのと、透が男の人の
スリッパを履いた素足を だん!とふみつけるのが一緒だった。