許嫁な二人
(14)
バタバタと走ってくる音がして、車のドアが乱暴に開けられた。
「ごめん、透ちゃん、遅くなっちゃった。」
弓道の弓を入れた包みを後部座席に置き、今度は助手席のドアをあけて
佳奈がどすんと乗り込んできた。
「騒がしくってごめんなさいね、透さん。これ、お弁当、
試合の後ででも召し上がってちょうだい。」
佳奈の乗り込んだ助手席のまどから、叔母の千恵子が顔をのぞかせて
弁当の包みを佳奈にてわたした。
「ありがとうございます、行ってきます。」
透はそう言い、車をスタートさせた。
弓道の試合会場につき、父の一番下の弟の娘である中学生の佳奈を
おろすと、車をおいてくるからと言って、透は駐車場の方へむかった。
しかし狭い駐車場はもういっぱいで、となりの神社の方へ車をまわすように
いわれてしまい、透はやっと車をとめると、神社をぬけていこうと
神社の境内に足をふみいれた。
今日の弓道の試合は、この神社がもっている弓道場でおこなわれる。
そんなに大きな大会ではない。
弓道をやりはじめて1年たった佳奈が、度胸試しに出てみたいと
個人的に出場するのだが、だれも家族の都合がつかず、透にお守役が
回ってきたのだった。
「久しぶりだな。」
神社と弓道場のぴんと張りつめたような空気がなつかしい。
神社の参道を歩きながら、透はひとりごちた。