許嫁な二人
ここは東京の郊外にある神社だが、思ったよりも広い。
弓道場をもっているとはめずらしが、ご神体のひとつが、鬼退治伝説
のある弓矢なんだというから、うなずけたりもする。
近道をしようと参道を脇にそれ、杉林の中に足をふみいれたとき
林の中にたたずむ人影にきづいて、透は足をとめた。
白と濃紺の弓道着を身につけ、長い髪を頭の後ろで一括りにした女性が
しめ縄のはってある御神木にむかって手を合わせている。
その後ろ姿が、よく見知っていたそれと重なって、透は次の一歩がふみだせず
その女性を凝視した。
合わせていた手を開き、頭を上げた女性が、こちらを振り向く。
そこに頭に浮かんでいたのと同じ顔をみとめて、透は体をかたくした。
(いや、彼女がここにいるはずがない、短大を卒業して、今は実家の
神社で働いているはず、、、)
同じように透の姿をみて、おどろいた顔をしていた女性の口がうごき
透の名を呼んだ。
「透くん、、、。」
「唯。」
呼ばれた名前にひかれるように、透は唯のそばまで大股で歩いていき
唯の目の前にたった。
「唯、どうして、、ここに?」
唯が答えようと口をひらいたとき、ドン、ドン、ドン と太鼓の音が
響いてきた。
「ごめんなさい、私もういかなきゃ。」