許嫁な二人

    「逃げるぞ!」



 痛さにしゃがみこんだ男の人の体のむこうから
 透の手がのびてきて、唯が夢中でそれをつかむと、
 二人は廊下を駆け出した。



   「待て!この野郎!」



 男の人の声が背中を追ってくる。

 振り向いちゃいけない、、、唯は前を走る透の背中だけをみて、
 繋いでいる手のひらの熱さだけを感じて、走った。




 
 どこをどう走ったのかわからない。

 気がつくと本館の表玄関とは別の場所から外へ出ていて、左手の
 奥に離れらしい建物が見えた。

 透は膝に手をついて、体をおりまげ肩で息をしていたが、隣で
 座り込んでしまった唯を見て、声をかけた。



   「もう走らなくてもいいと思うけど、だいじょうぶか?
    歩けるか?」

   「うん、、、歩ける。」



 そう言ったものの、5歩ほども歩くと、唯は座り込んでしまう。



   「しょうがないな。」



 透は、はぁーと息をはくと、唯に背中をみせてしゃがんだ。

 唯を背負おうというのだ。
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